温泉までの長い旅②

さて、田沢湖駅で1時間待つはめになった僕は、
「手嶌あおい」を聞きながら啄木の「一握の砂」を読み涙していた。いや涙はしてない、涙が出そうになっただけだ。


田沢湖一周のバスがやって来た。運転手さんに事情を聴くと、10時台で1時間半くらいで回るそうである。
いや、東京に帰る新幹線は13時なのだ。その間、ずっと温泉というワケにも行くまい、そう思っていたのだ。



やっと、乳頭温泉行のバスが来た。
山間をどんどん登って行く。
なんとか温泉郷というのが沢山あるのだなあ。と気楽に考えていた。



何しろ僕は終点まで行けば良いのだからな。
その考えが間違っていたことに気が付いた時には愕然としてものだ。


乳頭温泉郷について、「田沢高原ホテル」を探したが、バス停近くにはない。
電話を掛けて事情を話すと、「高原ホテル前」で降りなくちゃ、というではないか
そうなら、最初からそういえよ。


振り返ってみるとバスはまだ止まっている。
キャリーバックとカサとを振り乱しながらバスに突進した。
やあ、間に合った。
隣のお嬢さんが「終バスに間に合ってよかったですね」と言ってくれた。
そうか6時で既に終バスかぁ
お嬢さんに聞くと「昨日は田沢湖を自転車で一周したよ。それから・・・・」
結構、アクティブに活動したらしい。



僕はダラダラ過ごすつもりだ。




高原ホテル前で降りると、電話の声と同じおじさん(もうおじいさんだな)が傘を持って待っていてくれた。
なんと親切な。
田沢湖一周のバスには途中で乗り継ぎができるそうだ。時刻表をみながら紙に書いてくれた。


「田沢高原ホテル」のロビー







今は6時過ぎ。
「お食事は7時でよろしいでしょうか?」随分急がせるじゃないか。
仲居さんの時間が決まっているのだろう。僕は鷹揚に了解した。




さて、風呂だ、風呂だ。温泉だ。


浴衣に着替え、ついでにパンツもシャツも着替え、どてら風の袢纏を引っ被って、1階に降りる(僕の部屋は3階だ)
脱衣場に入ると誰もいない。
皆は早く来て、既に温泉に入り、今頃は夕食時なのだろう。



ごじんまりとした四角の湯船である。
色は灰色がかった乳白色で、イオウの臭いがすごい。
するりと湯船に入ると、少し深いので、肩まで浸かる。


熱くもなく、ぬるくもなく、いい湯である。
この数日間の疲れが取れるようだ。



頭と、体を洗い、湯船に浸かる。
もともと僕は「カラスの行水」で風呂は早いのだが
この気持ち良さに長湯をしてしまった。


露天風呂は寒くて、すぐに飛び出した。


風呂上り、帰り道、本棚に「ガラスの仮面」が揃っているのに気がついた。
「はなとゆめ」の名作でないか。
今夜はこれを借りて読もう。




フロントに断って、数冊借りて部屋にもどる。



夕食は独りで独り言をいいながら食べた。
秋田名物「きりたんぽ鍋」があったが特筆すべきことはなんもなし。



布団の中で、ガラスの仮面を半分も読めないうちに猛烈に眠くなった。
睡眠薬をのみ寝る。


田沢湖一周、東京と旅はまだ続く。