ルービックキューブ

東京からの高速バスで隣り合わせた青年は、結構な奴だった。


仕切りのカーテンのことで、言葉を交わしたのが最初で
少し言葉を交わすうち、同じ大学の学生だと分かった。


彼が少し胡散臭そうにしているので、学生証を見せると
彼もごそごそ、尻のポケットから財布を取り出し、学生証を出して見比べた。
「ほらね、同じだろ」「ええ、おんなじですねぇ」



彼の名は佐藤君、工学部の3回生だそうだ。

「ところで君は、大学祭もサボって、こんなところで何してるんだい、就活じゃなさそうだし」
彼はとてもラフな格好をしていたのだから。



ルービックキューブってご存知ですか?」
バカにすんない。6面はできないが3面までは揃えたことがあるんだぞ。
「あの、6面体の奴かい?」「そうです、そうです」
「そのルービックキューブアジア選手権があったんです、それに出場してました」
「独りで?」「まあ、マイナーなものなので」





成績を聞いたら、決勝まで残ったそうだ。
でも、観客に飲まれて(相当緊張したらしい)結局全体で12位だったそうである。



しかし、すごいじゃないか。アジアで12番目だぜ。
何しろ優勝した奴は10秒を切ったらしい。
ルービックキューブのことになると、少し興奮気味に佐藤君は話す(もちろん、小さな声で)



佐藤君を褒めていいのはもう1つある。
僕が、もうすぐ岡山に着くという頃、全日空ホテルの朝飯でも奢ろうかとちょっと大人を強調してみたところ
「残念ですが、今日の1限に出るので、すぐ帰らなきゃならないもので」


かぁ、深夜の高速バスに揺られて、朝7時に着いて、1限の講義に出るだと。
全日空ホテルの朝飯っていやあ、\2,300もするんだぞ。




ルービックキューブが好きな奴だもんな、四角四面の真面目っ子に違いない。